1930年代バルナックから現行MPまで──4台ローテーション運用で考える「触るか、触らないか」
はじめに|清掃は技術ではなく、距離感で決まる
ライカの清掃方法を調べると、道具の紹介や具体的な手順はいくらでも出てきます。
しかし、実際に迷うのはそこではありません。
- どこまで触っていいのか
- これは本当に拭くべきか
- 今やる必要があるのか
その“判断基準”です。
私は現在、4台のライカをフィルム1本ローテーションで使っています。
- バルナックD2+旧エルマー+イエローフィルター(T-MAX100)
- M3+ズマール(T-MAX100)
- M6+ズミクロン3rd(カラー)
- MPブラックペイント(カラー)
同じ「ライカ」でも、触る距離はまったく違います。
この記事では、清掃道具の紹介を軸にしながら、
私なりの“触る基準”を整理します。
第1章|まず前提:年代で強さは違う
1930〜50年代
- ノンコートまたは初期単層コート
- 真鍮ボディ+ブラックペイント
- 天然バルサム接着
摩耗耐性は低く、塗膜も柔らかい。
削れたコーティングは戻りません。
基本思想は「触らない」。
1950〜2000年代
- 改良単層コート
- ブラッククローム
- 合成接着剤
実用を前提に設計されています。
とはいえ現代レンズ並みに強いわけではありません。
ここは「節度ある実用」です。
第2章|私の4台、それぞれの距離
1. バルナックD2+旧エルマー+イエローフィルター
この個体は守る対象です。
しかし、私は屋外専用で使っています。
そして常に製造年代が近い純正のイエローフィルターを装着しています。
つまり、前玉は直接拭きません。
汚れるのはまずフィルターです。
フィルターが汚れれば拭きます。
なぜなら、
フィルターは交換可能。
前玉は交換できない。
これは精神論ではなく、構造の問題です。
私はDⅡを触らないのではなく、
触る場所を選んでいる
のです。
ブロワーで落ちない粒子があっても、
まず撮影して確認します。
実際、ホコリは思ったほど写りません。
2. M3+ズマール
M3は、D2ほど神経質にはなりませんが、完全な実用機とも言い切れません。
ブロワーで粒子を落としたあと、
写りに影響があると判断したときだけクリーニングペーパーを使います。
往復はしません。
紙の重さで触れる程度。
押さえつけることはありません。
指で力を加えるのではなく、紙をそっと置き、そのまま一方向に動かす感覚です。
それでも十分です。
必要以上の力は、必要以上の摩耗につながります。
迷いながら触るのではなく、
必要と判断したときだけ、最小限で終わらせる。
M3との距離は、そのくらいです。
3. M6+ズミクロン3rd
心理的ハードルはさらに下がります。
カラーではフレアが目立つことがあります。
撮影直前、直後に軽く拭くこともあります。
それでも最優先はブロワーです。
4. MPブラックペイント(息子の誕生年月)
素材的には一番強い。
しかし私にとっては一番触らない個体です。
息子の誕生月に製造された個体だからです。
これは道具であると同時に、時間の印です。
素材が強いから触れるのではなく、意味があるから触らない。
清掃の判断は素材だけで決まりません。
第3章|私の清掃フロー
- 強い光で状態確認
- レンズを下向きにして大型ブロワー
- 残留粒子を確認
- 写りに影響があるか判断
- 必要と判断した場合のみ最小限の接触
この「4」が重要です。
多くの場合、触らなくて済みます。
第4章|道具の位置づけ
1. 大型シリコンブロワー(最優先)
非接触。
清掃の8割はこれで終わります。
2. 小型ブロワー
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撮影前の確認用。
フィルター面や前玉に軽く一吹き。
拭く前の最後の抵抗です。
風量は必要十分でいい。
強さより、回数を減らすための道具。
3. 天然毛ブラシ(外装専用)
使うのは外装のみ。
実際は大丈夫なんですが、私はレンズ面には使いません。
ブロワー後、鏡胴部やボディを軽く払うだけ。
砂埃を感じたときのみ。
触らないための補助。
4. クリーニングペーパー
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使うなら一方向一回。
紙の重さで触れる程度。
往復しない。
必要なときだけ。
1930年代の個体では、さらに慎重に。
5. アルコールフリー液(条件付き)
月に一度程度。
1滴未満。
直接吹きかけない。
ペーパーにごく少量。
1930年代の個体では、ほぼ使わない。
基本は、使わない。
第5章|気をつけていても傷つく
どれだけ気をつけても、使えば摩耗はします。
ブラックペイントは削れます。
コーティングも薄くなります。
だから私は、傷をゼロにする努力ではなく、
傷を受け入れられる距離を保つこと
を意識しています。
第6章|絶対にやらないこと
- 液体を直接吹きかけない
- 往復強拭きしない
- 汚れたクロスを再利用しない
- シャッター幕に液体を近づけない
- 高湿度で放置しない
第7章|清掃より重要なこと
清掃はリカバリー。
保存は予防。
湿度40%前後管理を優先しています。
詳しくはこちらの記事で※後日更新
まとめ|触らない基準を持つ
1930年代は触らない。
M3は慎重実用。
M6は節度ある実用。
MPは意味で触らない。
清掃は技術ではなく、距離感です。
削れた膜は戻りません。
触る前に一度立ち止まる。
それが、私の基準です。
あくまでその一例です。そしてきっと、
それぞれのカメラに、それぞれの距離があるはずです。
守るために使う。使うために守る。
その間にある静かな判断を、これからも大切にしていきたいと思います。







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