露出計を内蔵した機械式M型の完成形
Leica M6は1984年に登場したレンジファインダーカメラです。
1954年のM3から続くM型ライカの系譜に属しながら、TTL露出計を内蔵した機械式カメラとして知られています。
1970年代から80年代にかけて、カメラ市場は大きく変化しました。
電子制御一眼レフが主流となり、自動露出やオートフォーカスなどの機能が急速に普及していきます。
その中でライカは、従来の機械式レンジファインダーの操作感を維持しながら、現代的な機能を取り入れる必要に迫られていました。
M6は、そうした時代の流れの中で誕生したモデルです。
なおM6は
機械式シャッターを採用しつつ露出計を内蔵したM型ライカの代表的モデルであり、後に電子制御シャッターのM7へとつながる世代に位置づけられます。
M6誕生までの流れ
M型ライカの歴史は1954年のM3から始まります。
主なモデルの流れは次の通りです。
M3(1954)
M型システムの基礎を作った初代モデル
M2(1957)
報道用途を意識し、フレームライン構成などを簡略化
M4(1967)
クイックローディングなど操作性を改良
M5(1971)
TTL露出計を初めて内蔵したM型
ただしボディ大型化などの理由で市場では成功せず1975年に生産終了
カナダ生産時代
1970年代に入るとライカは経営的にも厳しい状況を迎え、生産体制の見直しが進められます。
その結果、M型カメラは一時的に**カナダのミッドランド工場(Leitz Canada)**で生産されるようになりました。
この時期に登場したのが
M4-2(1977)
M4-P(1981)
です。
いずれも露出計を持たない純粋な機械式カメラでした。
しかし市場ではすでに露出計内蔵カメラが一般的になっており、M型にも測光機能を求める声が高まっていきます。
その流れの中で1984年に登場したのがM6でした。
Leica M6(1984)
M6の最大の特徴は、TTL測光を内蔵したことです。
測光はシャッター幕の反射を利用するTTL方式で、ファインダー内にはLED表示が設けられています。
表示は非常にシンプルで
・左矢印(露出不足)
・右矢印(露出過多)
・両方点灯表示(適正露出)(復刻版は中央の丸点灯)
という3種類で露出を判断します。
ただしシャッター自体は完全機械式です。
つまり
露出計は電子
シャッターは機械
という構成になっています。
この設計により、電池が切れてもシャッターは動作します。
後に登場する電子制御シャッターのM7との大きな違いでもあります。
M6の主な仕様
主な仕様は次の通りです。
シャッター
布幕横走りフォーカルプレーンシャッター
最高シャッター速度
1/1000秒
フラッシュ同調速度
1/50秒
測光方式
TTL測光(中央重点的特性)
電池
SR44またはLR44 ×2
ファインダー倍率
M6には主に3種類のファインダー倍率が存在します。
0.72倍(標準)
最も一般的な仕様
0.85倍
望遠レンズ使用を意識した仕様
0.58倍
広角レンズ向けの仕様
なお 0.85倍と0.58倍は1990年代後半以降に追加された仕様で、
初期のM6では0.72倍が標準的でした。
装着レンズに応じてフレームラインが自動表示される仕組みになっています。
生産期間
M6には大きく分けて2種類のモデルがあります。
M6 Classic
1984年〜1998年
M6 TTL
1998年〜2002年
総生産台数は資料によって差がありますが、約18万台前後(Classic 13万、TTL 5万)と推定されています。
2002年には電子制御シャッターを採用したM7が登場し、M型は新しい世代へと移行していきます。
中古市場での確認ポイント
現在の中古市場では、M6は比較的流通量の多いM型です。
ただし購入時にはいくつか確認しておきたいポイントがあります。
露出計の動作
電子回路のため、故障している個体もあります。
ファインダーの曇り
長期保管により内部に曇りが発生することがあります。
シャッター幕の状態
布幕の劣化やピンホールがないか確認が必要です。
機械部分はオーバーホールで回復するケースが多いですが、電子部品は交換部品の状況によって修理が難しい場合もあります。
M型ライカの中での位置
M6は
機械式シャッターを持ちながら
露出計を内蔵したモデル
という点で、M型の中でも独特の位置にあります。
完全機械式のM3やM4と、
電子制御シャッターのM7の間に位置する世代と言えるでしょう。
1980年代のライカが出した一つの答えが、このM6でした。
M6 TTLとの違い
1998年には改良型となる M6 TTL が登場します。
外観は非常によく似ていますが
・シャッターダイヤルの操作方向
・フラッシュ同調速度(1/125秒)
・フラッシュTTL対応
など、いくつかの仕様が変更されています。
中古市場ではこの M6 Classic と M6 TTL が混同されることも少なくありません。
そのため両者の違いについては、別の記事で詳しく整理します
M6測光の光学設計
シャッター幕反射TTL測光
Leica M6の測光は、一般的な一眼レフのTTL測光とは異なり、レンジファインダー構造に適した特殊なTTL方式を採用しています。M6ではレンズを通過した光がフィルム面直前のシャッター幕に当たり、そこに設けられた白色反射パターンから反射した光をボディ内部のCdSセルが受光する仕組みになっています。この方式は Leica資料では TTL selective metering と呼ばれます。
測光範囲はファインダー中央付近の楕円形領域に相当し、資料によって差はあるものの、実際の測光範囲はおよそ 12〜13mm程度、画面全体の 15〜20%前後とされています。そのため実用上は中央重点測光として説明されることが多い構造です。
M6の前幕には測光のための 白色塗装パターン が設けられており、一定の反射率を確保することで測光精度を安定させています。この設計はM6独自のものではなく、TTL測光を採用した M5、Leica CL、M6、M7 などで共通する構造です(Erwin Puts Leica Compendium)。
測光センサーには CdS(硫化カドミウム)セル が使用されています。CdSセルは応答速度はやや遅いものの、安定性とコストの面で優れており、当時のカメラ露出計として広く使用されていました。M6の露出表示はLEDによる3点表示で、ファインダー内に ←(露出不足)・●(適正露出)・→(露出過多) の表示が現れるシンプルな構造になっています。
Solms移行期の製造差
M6の登場は、ライカの製造拠点がカナダからドイツへ移行する時期と重なっています。
1970年代後半、M型カメラの生産は主に Leitz Canada(オンタリオ州ミッドランド) で行われていました。ここで製造された代表的なモデルが M4-2(1977) と M4-P(1981) です。
この時期はライカの経営状況が厳しく、コスト削減のために部品構成の簡略化や外注部品の採用、組立工程の合理化などが進められました(James Lager Leica: An Illustrated History Vol.III)。
1980年代になると、生産の中心は徐々にドイツの Solms(ゾルムス)工場へ移行します。
M6はこのSolms時代に入ってから本格的に生産された最初期のM型であり、製造品質の改善が図られたモデルでもあります。
特にファインダー調整精度、外装塗装の品質、機械部品の加工精度などがM4-Pより向上したとされ、サービス資料でもSolms期のM6は組立精度の改善が指摘されています。
M4-PからM6への内部構造変更
M6の外観はM4-Pと非常によく似ていますが、内部構造にはいくつかの重要な変更があります。
最大の違いはもちろん 測光ユニットの追加です。M6にはCdSセル、電子回路基板、LED表示ユニットなどが組み込まれており、シャッターボタンを半押しすると測光回路が作動する仕組みになっています。
測光機能の追加に伴い、シャッター幕にも変更が加えられました。M6では前幕に測光用の白色反射パターンが塗装されており、この点がM4-Pの幕構造との違いになります。またファインダー内の露出表示を実現するため、トップカバー内部にはLED表示窓と表示基板が追加されています。
電源には SR44またはLR44電池を2個使用し、電池室はボディ底部に設けられています。これはM5の大型電池室とは異なり、M型のコンパクトなボディサイズを維持するための設計です。
布幕シャッターの素材変遷
M型ライカは1954年のM3以来、一貫して 布幕横走りフォーカルプレーンシャッター を採用しています。基本素材は ゴム引きシルク(rubberized silk)で、シルク布にゴムコーティングと遮光層を重ねた構造になっています。この構造は軽量で振動が少なく、作動音も比較的静かな点が特徴です。
M3からM4の時代に使用されていた幕は主に 天然ゴム系コーティングでしたが、長期使用によって硬化やクラック、ピンホールなどの劣化が発生することがあります。1970年代後半のM4-2以降では素材が徐々に改良され、合成ゴム系コーティングへ移行しました。これにより耐久性や温度変化への耐性が向上しています。
M6ではM4-Pのシャッター構造を基本的に継承しつつ、TTL測光のために 前幕へ白色反射パターン が追加されています。シャッター幕の耐久性は使用状況にも左右されますが、一般的には 10万〜15万回程度の作動が目安とされています(Leica service documentation)。







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